2026年8月26日、日経ヘルスケア「中核人材育成プログラム」の第2回研修を開催しました。
今回のテーマは「会議の再設計」です。
医療機関には、経営会議、部門会議、医療安全委員会、感染対策委員会、カンファレンスなど、数多くの会議があります。
しかし、会議が多いことと、組織がうまく機能していることは同じではありません。
「毎月、同じ数字を報告して終わる」
「意見交換はするけれど、結論が決まらない」
「会議で決めたはずなのに、誰も動かない」
こうした会議は、医療現場で決して珍しいものではありません。
今回の研修では、会議を単なる情報共有の場としてではなく、組織が考え、意思決定し、認識を揃え、行動につなげるための仕組みとして捉え直しました。
研修の前半では、会議にかかるコストについて考えました。
例えば、時間単価3,000円の職員10人が90分の会議に参加すると、1回あたりの人件費は45,000円です。
これを月2回開催すれば、年間108万円になります。
もちろん、会議の費用が高いからといって、すぐに廃止すべきという話ではありません。
会議は、組織にとっての投資です。
問題は、その投資に見合う成果が生まれているかどうかです。
会議を開催した結果、何が決まったのか。どのような問題が解決されたのか。誰が次の行動を担うことになったのか。
こうした成果が確認できなければ、多くの職員の時間を使って集まる意味が薄れてしまいます。
今回の研修では、会議の人件費を可視化する「会議原価算出シート」も紹介し、自院の会議について、費用と成果の両面から考える方法を学びました。
今回の研修では、会議の役割を三つに整理しました。
① 考える:複数の意見や情報から、選択肢や解決策をつくる。
② 決める:組織として何をするのかを判断し、結論を出す。
③ 揃える:関係者の認識や優先順位、役割、次の行動を一致させる。
大切なのは、会議を開催する前に、今回の会議では何をするのかを明確にしておくことです。
例えば、現状の問題に対して複数の改善案を考える会議と、どの改善案を採用するか決定する会議では、求められる進め方が異なります。
また、決定したことを関係者全員が理解し、それぞれの役割を確認することも、会議の大切な機能です。
逆に、単なる連絡事項や資料の読み上げであれば、メールやチャット、共有資料で済ませられる場合もあります。
会議でしかできないことに、人と時間を使う。
これが、会議を再設計するうえでの基本的な考え方です。
研修では、会議の開催形態を「定例会議」「臨時会議」「ハドルミーティング」の三つに整理しました。
定例会議は、組織の進捗や課題を継続的に点検し、必要な意思決定につなげる場です。
臨時会議は、課題や意思決定の必要性が生じたときに、関係者を集めて考え、判断する場です。
そして、ハドルミーティングは、短時間で現場の状況や認識を揃えるためのミーティングです。
例えば、病棟で急な入院が決まった場合、看護師、医師、事務職員などの関係者が短時間集まり、病床の準備、役割分担、注意点などを確認します。
こうした場面では、長時間の会議を開催するよりも、5〜15分程度のハドルによって必要な情報と行動を揃える方が合理的です。
ただし、ハドルは短時間で必要な確認を行うものであり、複雑な問題を長く議論する場ではありません。
状況に応じて、どのような会議を、誰と、どの程度の時間で開催するのか。
こうした判断も、中核人材に求められるマネジメントスキルです。
今回の研修では、会議を運営する「ファシリテーション」についても取り上げました。
ファシリテーターは、会議を予定どおり進めるだけの司会者ではありません。
参加者から必要な意見を引き出し、議論を整理し、会議の目的に応じた成果を生み出す役割を担います。
研修では、このファシリテーションを五つの段階に分けて解説しました。
Level 1:進める ― 目的・議題・時間を管理する。
Level 2:引き出す ― 必要な参加者から意見や情報を集める。
Level 3:整理する ― 議論を整理し、論点を見えるようにする。
Level 4:着地させる ― 会議の目的に応じて、結論や共通認識を残す。
Level 5:動かす ― 会議の成果を、参加者の具体的な行動につなげる。
会議運営の経験が少ない職員に、最初から高度なファシリテーションを求める必要はありません。
まずは実際に会議の進行を担当し、参加者から意見を引き出してみる。
その経験を振り返り、次の会議で改善する。
ファシリテーションは、知識を学ぶだけでなく、実際の会議を経験することで身につくスキルです。
本プログラムでは、こうした実践経験を通じた中核人材の育成を重視しています。
研修の後半では、医療機関の経営会議を取り上げました。
多くの医療機関では、病床稼働率、外来患者数、手術件数、紹介患者数、収入など、さまざまな経営指標が会議で報告されています。
しかし、数字を共有するだけでは、経営会議として十分に機能しているとはいえません。
例えば、「今月の病床稼働率は78%でした」という報告だけでは、経営として何を判断すべきなのかが分かりません。
目標との差はどの程度なのか。なぜ目標を下回ったのか。経営にどのような影響があるのか。そして、何を改善すべきなのか。
今回の研修では、経営指標を
「数字 → 差異 → 要因仮説 → 影響 → 提案」
という流れで整理し、経営判断につながる議題へ変換する方法を紹介しました。
さらに、経営会議で扱う議題についても、複数部門に関係するか、経営陣の判断が必要か、経営への影響が大きいか、といった視点から優先順位をつける方法を解説しました。
経営会議の目的は、資料を説明することではありません。
経営上の課題について考え、必要な意思決定を行い、組織として次の行動を決めることです。
中核人材には、経営陣からの指示を待つだけでなく、自ら問題を分析し、改善案を考え、経営判断ができる状態まで議題を整理することも期待されます。
今回の研修では、学んだ内容を実際の職場で使ってみるため、参加者に具体的な課題を設定しました。
自院の会議を一つ選び、その原価を算出して経営層に提出すること。
実際の会議で、ファシリテーターを一度担当してみること。
必要な場面があれば、ハドルミーティングを開催すること。
さらに挑戦課題として、自院の経営数字から「提案付きの経営議題」を一つ作成し、経営会議へ提出することも紹介しました。
本プログラムでは、研修で知識を得るだけでなく、**実際にやってみる「ゼロイチ体験」**を重視しています。
最初からうまくできる必要はありません。
実際に挑戦し、うまくいかなかったことを振り返り、次の実践につなげていく。
こうした経験の積み重ねが、中核人材として組織を動かす力を育てていくと考えています。
会議には、その組織の特徴が表れます。
誰が発言するのか。誰が意思決定するのか。異なる意見を出せるのか。決まったことが実行されるのか。
会議の進め方を見直すことは、組織の意思決定や協働のあり方を見直すことにもつながります。
良い会議とは、たくさん話した会議ではありません。会議後に、組織が動ける状態になった会議です。
中核人材が会議を設計し、議論を整理し、関係者を巻き込みながら行動につなげていく。
その経験を積み重ねることが、院長や管理職の指示に依存しない、自走する組織づくりの第一歩になります。
次回、第3回は「目標設定と意思決定」をテーマに、組織が共通の目的を持ち、現場で自ら判断して行動できるようになるための考え方を学びます。
日経ヘルスケア「中核人材育成プログラム」
開催日:2026年8月26日
講師:株式会社AMI&I 代表取締役 溝口博重
プログラムの詳細:
https://medical.nikkeibp.co.jp/all/info/about/method26/