2026年1月25日、全国医師連盟主催によるシンポジウム
「医師の働き方改革 ― 海外事例を日本に導入できないか?」がオンラインにて開催されました。
本シンポジウムでは、2024年4月より本格施行された医師の時間外労働規制を起点に、
日本の医療現場が直面している構造的課題を整理するとともに、
欧州を中心とした海外制度の実例を踏まえ、
「日本において何が導入可能で、どこに本質的な障壁があるのか」を多角的に検討しました。
なお本シンポジウムでは、溝口博重(AMI&I代表)がモデリストを務め、
基調講演・事例紹介・パネルディスカッションの全編を通じて議論の整理と論点提示を行いました。
今回のシンポジウムで共有された最も重要な前提認識は、
日本の医師の働き方改革が「制度としては始まったが、構造としては未完である」という点です。
時間外労働の上限規制は導入されたものの、
規制遵守と医療提供の両立が個々の医師・医療機関に委ねられている
制度の歪みを現場の自己犠牲で吸収している構図が残存している
医療提供体制の持続可能性が依然として不安定である
といった課題が、各登壇者から指摘されました。
本シンポジウムでは、特に次の三つの海外制度が紹介されました。
救急医療を個々の医師や病院の裁量に委ねるのではなく、
地域全体で医療資源を統合管理する「公共インフラ」として再設計するモデルです。
「断らない救急」を目的化するのではなく、
適切な患者を適切な医療機関へ振り分ける仕組みを重視し、
医師の労働時間制限を前提とした制度設計が行われています。
「昼の医師が夜も働く」という前提を否定し、
夜間・休日医療を独立した専門業務として切り出す制度です。
夜勤・当直を修行や付随業務として扱うのではなく、
高リスク業務として専門化し、役割・報酬・勤務体系を明確に分離することで、
連続勤務の常態化を構造的に防いでいます。
医療提供の責任単位を「医師個人」から「チーム・地域」へ移行するモデルです。
患者は特定の医師に属するのではなく、
地域の保健センター(チーム)に所属し、
主治医不在でも医療が継続される体制が制度的に担保されています。
これにより、「この医師がいなければ医療が止まる」という
属人的構造そのものを解消しています。
これら三つの海外事例に共通する本質は明確です。
医師の働き方改革とは、
労働時間を制限する改革ではなく、
医療の責任構造を「個人」から「制度・チーム」へ移す改革である。
という設計思想が、制度の前提に置かれている点です。
この視点に立つと、日本での導入にあたっては、
診療報酬制度
医局人事・人材配置の考え方
医療提供体制の単位
医療文化・価値観
といった根本的な設計思想の見直しが不可避であることも、
同時に浮き彫りになりました。
本シンポジウムにおいて溝口は、
単なる進行役ではなく、
海外事例を「日本の制度構造」に引き戻す翻訳役
理念論と現実論の間にある論点の可視化
導入可能性と制度的限界の切り分け
を意識しながら、全セッションを通じて議論を整理しました。
「海外ではできている」
「日本は特殊だから無理だ」
という二項対立に陥るのではなく、
どこまでが制度で、どこからが文化なのかを冷静に見極めることこそが、
今回のシンポジウムの最大の成果であったと考えています。
本シンポジウムは、海外事例を礼賛する場ではありません。
また、即時的な制度移植を主張するものでもありません。
「医師が無理をすることで成り立つ医療」から、
「制度が医師を支えることで成り立つ医療」へ。
その転換点を、現実的かつ構造的に検討するための
重要な第一歩として位置づけられる議論でした。
AMI&Iでは、今後も医療現場・政策・経営の接点に立ち、
実装可能性を重視した提言と支援を継続してまいります。