弊社では、日本の医療制度を相対化し、将来の制度設計や医療機関経営の視点を広げることを目的として、「海外医療制度勉強会」を継続的に開催しています。
2025年12月18日に開催した勉強会では、株式会社AMI&I 代表取締役 溝口博重が登壇し、「香港の医療制度」をテーマに解説しました。
今回取り上げたのは、香港の公立医療の中核を担うHospital Authority(HA)モデルです。
香港の医療制度の最大の特徴は、公立医療が強いことそのものではなく、HAという単一の運営主体が公立医療をほぼ一元的に担っている点にあります。HAは1990年に設立された法定機関であり、現在では香港内の公立病院約40施設以上を管理・運営し、急性期医療や高度医療の大部分を担っています。
勉強会ではまず、HAが単なる病院の集合体ではなく、医療提供・人材雇用・財源配分・IT基盤などを統合管理する準国家的オペレーターである点を整理しました。医師や看護師などの医療従事者はHAに雇用され、電子カルテや医療情報システムもHA主導で統一されています。この中央集権的な設計により、医療の質や医療資源の配分を制度としてコントロールしている点が、日本の医療提供体制との大きな違いとして紹介されました。
また、香港では公立医療を補完する形で民間医療が存在しており、外来診療や軽症医療の多くは民間クリニックや私立病院が担う一方、重症医療や高度医療はHAが中心となって提供するという役割分担が形成されています。この構造により、公立医療は「最後のセーフティネット」として機能しています。
さらに近年の取り組みとして、HA主導で進められている慢性疾患管理や電子医療記録(eHR)などの医療データ基盤整備についても紹介しました。これらは単なるIT施策ではなく、医療需要の増加や高齢化への対応を見据えた制度設計の一部として位置づけられています。単一主体であるHAが存在することで、医療提供体制全体を見据えた改革を進めやすい点が強調されました。
参加者からは、
「HAという運営主体の存在が、日本との違いを理解する鍵になった」
「病院単位ではなく、システム単位で医療を設計している点が印象的だった」
といった声が寄せられ、海外制度と日本制度の比較を通じた活発な議論が行われました。
本勉強会を通じて、医療制度の持続性は医療機関単位の努力だけではなく、医療提供体制をどのような主体が運営し、どのように統合管理するかという制度構造に大きく左右されることが改めて示されました。香港のHAモデルは、公立医療を単一主体で運営する制度設計の一例として、日本の医療制度を考える上でも多くの示唆を与える事例といえます。
弊社では今後も、こうした海外事例を通じた構造的な比較分析を継続してまいります。