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2025/11/20

【海外医療制度勉強会】「アイスランドの医療制度2025」

【実施報告書】海外医療制度勉強会(アイスランド編)

2025年11月20日、海外医療制度に関する勉強会を開催し、今回は「アイスランド(Iceland)」の医療制度をテーマに取り上げました。
講師は弊社代表の溝口博重が務めました。
参加者は医療従事者、行政関係者、学生、ヘルスケア産業に関心を持つ方々など計52名でした。

第1章:国家構造と制度文化の背景
アイスランドは北欧型福祉国家に分類されますが、人口わずか38万、地理的隔絶性が高い国であり、「中央集権・単一保険者・強い公的主導」が特徴的です。
特筆すべきは、社会保障を「国家の責務」と捉え、医療を“公共財”として扱う制度文化です。

制度の根底には以下の価値観が見られます。
・医療へのアクセスは国民的権利であり、所得による格差を極小化する
・医療提供のほぼ全領域を公的部門が担い、民間は補完的役割
・専門職(医師・看護師)の自治と、国民的合意形成を重視する合議文化

第2章:制度変遷と構造転換
アイスランド医療制度の流れは、大きく3段階で整理できます。
1)1950年代〜 北欧型社会保障モデルを導入(税方式+全国一元化)
2)1990年代 財政危機と人口減少を背景に、効率化と集約化を推進
3)2000年代以降 病院再編・電子カルテ全国統合・救急医療体制の高度化を継続

とりわけ医療 ICT の全国統一(1ID・1EHR)と、救急医療の集中管理は、世界的にも高い評価を受けています。

第3章:財源方式と国民皆保険の考え方
アイスランドもニュージーランド同様、日本のような「保険証を持つ加入型の皆保険制度」は存在しません。
・医療財源の多くは税方式(General Taxation)で負担
・住民であれば自動的に公的医療を利用可能
・民間保険の加入率は約15%程度で、主に“追加サービス”目的(待ち時間短縮・歯科補完等)

患者負担は北欧諸国の中ではやや高めですが、年間で上限(キャップ)が設けられており、高額負担は生じにくい制度設計となっています。

第4章:医療提供体制の全体像

α:プライマリ・ケア
かかりつけ医(GP)登録制を採用。全国的に提供体制が均質化され、地域格差が小さい点が特徴です。

β:病院・専門医療
全国に大規模病院が限られるため、専門治療はレイキャビクに集中。高次医療は他国(主にデンマーク)との連携で補完する体制です。

γ:救急・外傷医療
人口規模に比して救急医療の質が高く、欧州トップクラスとされます。ドクターヘリ・遠隔医療の発達が寄与しています。

δ:高齢者ケア・在宅ケア
介護保険制度はなく、医療・福祉・自治体補助がシームレスに連結。地域レベルでの包括ケアが標準化されています。

第5章:医師教育・医療技術・人材流動性
医師教育は欧州標準に準じ、国際移動が容易。国内の医師数が限られるため、外国人医師の受入れも比較的スムーズです。
診療報酬は公定価格で、病院は包括予算制。医療技術の標準化・ガイドライン遵守が徹底されています。

また、電子カルテ統合・DNAデータベース活用など、人口小国だからこそ可能な「全住民情報の統合管理」が強みです。

第6章:質疑応答・参加者の声
「医療・介護の境界が薄く、『制度の縦割り』が日本ほど存在しない点が印象的だった」
「小国ゆえの集中管理が、ICTと救急医療の質につながっている」
「家族を強制的に負担させない制度と、自治体による生活支援の厚さが北欧らしい」

次回予告
次回は「香港」の医療制度を取り上げます。英・中・東アジアの影響が交差する独自モデルを、財源構造・公私バランス・歴史的背景から分析します。

申込:
https://mizohiro-9round.peatix.com/