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2025/8/21

【海外医療制度勉強会】「チェコの医療制度2025」

【実施報告書】海外医療制度勉強会(チェコ共和国編)

2025年8月21日、海外医療制度に関する勉強会を実施し、今回は「チェコ共和国」の医療制度をテーマに取り上げました。
講師は弊社代表の溝口博重が務めました。
参加者は医療従事者、行政関係者、学生、医療関連ビジネスに関心を持つ方々など計28名でした。

第1章:国家構造と制度文化の背景
チェコは中欧に位置し、社会主義時代に「セマシュコ型医療制度」を採用していた歴史を持ちます。現在は民主化とEU加盟を経て、社会保険方式(ビスマルク型)へと移行しつつも、公的関与が強い「ハイブリッド制度」が特徴です。
国民の医療制度への信頼は比較的高く、制度文化として「国民皆保険」「平等性」「国家管理の透明性」が根付いています。

第2章:制度変遷と構造転換
1990年代以降、チェコは社会主義医療から段階的に市場経済型医療へと移行しました。
主要な改革の柱は以下の通りです。
1)社会保険基金(VZP)を中心とした複数保険者制度の導入
2)民営化による医療提供者の多様化
3)EU規制に準拠した医療財政・医薬品管理の整備
この結果、旧セマシュコ型の「国家直営医療」から「保険者主導型の医療」へとシフトしました。

第3章:国民皆保険とリスク共有の仕組み
チェコの国民はすべて健康保険への加入が義務付けられています。
主要保険者であるVZP(Všeobecná zdravotní pojišťovna)が国民の約60%をカバーし、その他に複数の職域保険者が存在します。
リスク共有のために、各保険者の間で資金調整制度(リスクプーリング)が導入されており、公平性の確保が図られています。

第4章:医療提供体制と地域ケア
医療提供体制は以下の4つの小章で整理しました。
α:プライマリ・ケア(家庭医制度)
家庭医(praktický lékař)がゲートキーパーとして機能し、住民の一次医療を担っています。専門医受診には紹介が必要で、効率的なアクセス調整がなされています。

β:病院と民営化の影響
公立病院が基盤を担いつつも、民営病院や私的クリニックも増加。特に地域病院の再編と効率化が進められています。

γ:薬局制度と医薬品管理
薬局は民営が中心ですが、医薬品価格は国による規制が強く、EU基準に基づいたリファレンスプライシング制度が導入されています。

δ:長期ケアと社会福祉
高齢化が進行する中で、医療と社会福祉サービスの接続が政策課題となっています。家庭医と自治体による地域包括ケアが模索されています。

第5章:QAC評価と国際比較
Quality(質):医師教育の水準が高く、プライマリケアの質は良好。ただし地域格差が残る。
Accessibility(アクセス):家庭医制度により基本的アクセスは担保されている一方、専門医待機時間が長くなることが課題。
Cost(費用):GDP比医療費は約7〜8%とOECD平均より低水準で、効率的な運営がなされている。

第6章:医師教育・診療報酬・長期ケア制度
医師教育:中欧の伝統を受け継ぎ、プラハ・ブルノなどの医学部は国際的評価が高い。EUボローニャ・プロセスに準拠。
診療報酬:出来高払い(FFS)が中心だが、包括的予算管理も導入されており、財政規律を重視。
長期ケア:高齢者介護は医療保険と社会保険の交錯領域であり、将来的な制度統合が検討されています。

第7章:質疑応答・参加者の声
勉強会の終盤には質疑応答と意見交換が行われ、以下のような声が寄せられました。
「社会主義型からビスマルク型への移行プロセスが非常に参考になった」
「医療費が抑制されつつ質が維持されている点に学びがあった」
「日本の地域包括ケアシステムとの比較で理解が深まった」

次回予告
次回は「アイルランド」の医療制度を取り上げます。
英国NHSの影響を受けつつ独自進化を遂げた事例として、その制度的特徴を深掘りしていきます。