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2026/4/16

【海外医療制度勉強会】「オーストリアの医療制度2026」開催報告

「オーストリアの医療制度
統制と自由が共存するハイブリッドモデルから考える」開催報告

弊社では、日本の医療制度を相対化し、将来の制度設計や医療機関経営の視点を広げることを目的として、「海外医療制度勉強会」を継続的に開催しています。
2026年4月16日に開催した勉強会では、株式会社AMI&I 代表取締役 溝口博重が登壇し、「オーストリアの医療制度」をテーマに解説しました。

今回取り上げたのは、社会保険方式を基盤としながらも、国家による強い供給統制と患者の自由なアクセスが同時に成立している「ハイブリッド型医療システム」です。

オーストリアの医療制度の最大の特徴は、「供給は統制、需要は自由」という構造にあります。すなわち、病床機能や医療資源の配置は国家・州レベルで厳格に計画・管理される一方で、患者は紹介状なしで専門医や病院にアクセスできるフリーアクセスが認められています。この一見相反する要素が両立している点が、本制度の本質的な特徴です。

勉強会ではまず、医療提供体制として、全国レベルの医療計画(ÖSG)に基づき、病院機能や病床数が州単位で管理されている点を整理しました。急性期医療は公的病院が中心となって担い、その配置や機能は政策的にコントロールされています。一方で外来医療においては、保険診療を担う契約医(Kassenarzt)と、自由診療を行う選択医(Wahlarzt)が併存しており、患者は自由に医療機関を選択することが可能です。

また、医療財源の仕組みとしては、社会保険をベースとしながら、入院医療については州ごとの「健康基金」を通じて資金が配分される構造となっています。特に、入院医療における資金配分は、全国共通の評価指標に基づくLKF(診断群分類に類似した仕組み)を用いつつ、最終的な配分は州が裁量を持つという、「統一評価 × 分権配分」の設計が採用されています。

さらに特徴的な点として、外来医療においては、診療報酬的な出来高評価と予算制が組み合わされている点が挙げられます。これは医療費のコントロールとアクセス確保を両立するための仕組みであり、単純な出来高制とも総額管理とも異なる設計となっています。

講義では加えて、電子カルテ連携基盤であるELGAや被保険者カード(e-card)といったデジタルインフラについても解説が行われました。これらは単なるIT導入ではなく、「データ流通を前提とした医療提供体制の設計」として位置づけられており、制度・運用・技術が一体となった基盤として機能しています。

また、こうした制度が成立している背景として、連邦制のもとでの権限分散構造や、社会保険と公的財政の役割分担といった歴史的・制度的文脈についても整理が行われました。

参加者からは、

「供給を強くコントロールしながらも、患者の自由度を維持している設計が非常に示唆的」

「統一的な評価指標と地域ごとの裁量を組み合わせた財源配分の仕組みは、日本にはない視点」

といった声が寄せられ、制度設計の前提条件の違いを踏まえた活発な議論が行われました。

本勉強会を通じて、医療制度は「統制か自由か」といった二項対立ではなく、どの領域にどの程度の権限とインセンティブを配置するかによって設計されるべきものであることが改めて示されました。オーストリアの事例は、限られた財源の中で医療の質・アクセス・コストのバランスをどのように取るかという観点から、日本の医療制度を再考する上で重要な示唆を与えるものといえます。

弊社では今後も、こうした海外事例を通じた構造的な比較分析を継続してまいります。