新着情報 新着情報のアイコン画像 Information

2026/9/16

日経ヘルスケア主催「中核人材育成プログラム」第3回を開催しました

― 目標設定と意思決定:自分で考え、判断し、行動できる組織へ ―

2026年9月16日、日経ヘルスケア「中核人材育成プログラム」の第3回研修を開催しました。

今回のテーマは「目標設定と意思決定」です。

前回の研修では、組織が協働するための「会議」のあり方について学びました。

しかし、どれだけ会議を改善し、活発に意見交換を行っても、「何を目指すのか」が明確でなければ、組織として適切な判断を下すことはできません。

目標は、単なる数値やノルマではありません。

人と組織の行動を同じ方向へ向け、何を優先し、何を選択するのかを決めるための判断基準です。

今回の研修では、目標設定に関する組織論や心理学の研究をもとに、医療現場で実践できる目標設定の方法と、それを人材育成や組織の自走化につなげる考え方を学びました。

 

指示命令だけで、組織は動くのか?

医療機関では、院長や管理職から現場へ、日々さまざまな指示が出されています。

しかし、「この数字を改善してください」「患者満足度を高めましょう」と指示するだけでは、職員が自発的に行動できるとは限りません。

研修では、組織における指揮命令系統や統制範囲の考え方に加え、米陸軍の「ミッション・コマンド」も紹介しました。

これは、上位者が目的や達成すべき状態を明確にし、その実現方法については現場の判断に委ねるという考え方です。

医療機関でも、管理職がすべてを判断し、細かな指示を出し続けることには限界があります。

自律とは、職員が好き勝手に判断することではありません。共通の目標と判断基準のもとで、自分で意思決定できることです。

そのための土台となるのが、適切な目標設定です。

 

良い目標は、具体的で挑戦的、そして達成できると思えるもの

研修では、ロックとレイサムの目標設定理論を取り上げました。

この理論では、具体的で挑戦的な目標が、曖昧な目標よりも高い成果につながりやすいことが示されています。

ただし、目標は高ければ高いほどよいわけではありません。

簡単すぎる目標では、新しい工夫や努力を引き出しにくくなります。一方、達成の見込みが持てないほど高い目標では、職員が取り組む意欲を失ってしまうことがあります。

大切なのは、今までと同じ方法では届かないけれど、工夫すれば達成できると思える水準に目標を設定することです。

また、目標には具体性だけでなく、本人の納得や、進捗に対するフィードバックも欠かせません。

「なぜ、この目標に取り組むのか」

「現在、どこまで達成できているのか」

「次に、何を変えればよいのか」

こうした内容を共有することで、目標を日々の行動につなげていきます。

 

経験がない仕事には、まず「学習目標」を設定する

今回、特に重視したのが、成果目標と学習目標を使い分けることです。

例えば、新しく病床管理を担当する職員に対して、「3か月後に病床稼働率85%を達成してください」と伝えたとします。

数値としては明確ですが、本人が病床稼働率を左右する要因や改善方法を理解していなければ、何から始めればよいのか分かりません。

こうした場合、最初から成果だけを求めるのではなく、仕事の進め方を学ぶための目標を設定することが有効です。

研修では、学習目標を「観察」「発見」「試行」「振り返り」の四段階に整理しました。

関係部署から話を聞き、現状のデータを分析し、問題の原因を見つけ、改善策を試してみる。そして、その結果を振り返る。

こうした経験を通じて、職員は「何をすれば成果につながるのか」を理解していきます。

やり方を知っている仕事には成果目標を、やり方を知らない仕事には、まず学習目標を。

人材育成においても、目標の設定方法を変えることで、経験から学ぶ機会を設計できます。

 

目標を増やしすぎると、組織は動けなくなる

目標設定には、副作用もあります。

医療機関では、医療安全、患者満足度、業務効率化、職員教育、残業削減など、多くの目標が同時に掲げられています。

どれも組織にとって大切な目標です。

しかし、人員や時間が限られている中で、目標ばかりが増えれば、現場は何を優先すればよいのか分からなくなります。

例えば、「残業時間を削減する」という目標と同時に、患者対応の充実、新人教育の強化、委員会活動の充実を求めた場合、現場の負担は増えてしまいます。

研修では、こうした「目標葛藤」に加え、数値目標の達成そのものが目的になってしまう「目標の暴走」についても解説しました。

数値目標は、組織の行動を方向づける有効な手段ですが、使い方を誤ると、本来の目的とは異なる行動を促してしまうことがあります。

新しい目標を設定するのであれば、何を優先し、何を減らし、誰が担当するのかまで考えることが必要です。

目標を追加するだけでなく、やらないことを決めるのもマネジメントの役割です。

 

自己効力感を高めることが、自走する組織への第一歩

研修の後半では、人材育成と目標設定の関係についても取り上げました。

中心となったのが、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感」です。

自己効力感とは、特定の課題に対して「自分ならできそうだ」と感じられることです。

組織の中で、職員が主体的に行動するためには、この感覚が一つの土台になります。

しかし、経験したことのない仕事に対して、最初から自信を持つことは簡単ではありません。

そこで重要になるのが、小さな成功体験を積み重ねることです。

今回の研修では、仕事を任せる前に、次に担当する仕事を予告し、あらかじめ観察するポイントを伝える方法も紹介しました。

例えば、次回の会議で司会を担当してもらうのであれば、事前にその予定を伝え、議論の進め方や発言の引き出し方を観察してもらいます。

そうすることで、実際に仕事を任せる前から学習が始まります。

そして、実際に挑戦し、結果を振り返り、次の仕事へ進んでいく。

「能力があるから任せる」のではなく、「任せる経験によって能力を育てる」。

今回の研修では、こうした人材育成の考え方も共有しました。

 

目標設定を、実際の職場で使ってみる

本プログラムでは、理論を理解するだけでなく、実際に使ってみることを重視しています。

今回も、学習目標の設計、目標の難易度診断、フィードバック、部下が動かない理由の診断など、実践に役立つツールを紹介しました。

さらに参加者には、職場で一人を選び、実際に目標を設定してみることと、次に任せる仕事を一つ予告することを課題としました。

まずは小さなことから実践し、「自分にもできた」という経験を積み重ねる。

その経験が、次の挑戦への意欲や、自分で考えて行動する力につながっていきます。

「人を変える」のではなく、「組織が自走する仕組み」をつくる。

目標を共有し、判断を現場に委ね、成功体験を通じて人材を育成することが、組織の自走化に向けた取り組みの一つになると考えています。

次回、第4回は「組織コミュニケーション」をテーマに、設定した目標をどのように現場に伝え、具体的な行動へつなげていくのかを考えます。


日経ヘルスケア「中核人材育成プログラム」

開催日:2026年9月16日

講師:株式会社AMI&I 代表取締役 溝口博重

プログラムの詳細:
https://medical.nikkeibp.co.jp/all/info/about/method26/